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むかしのむかしの素敵なピアノ展 [音楽]

DSC_0749.jpg先日、音楽祭の帰りに、「おかあさんといっしょ」の楽譜とかあるかな、と銀座のヤマハに寄ってみましたら、「むかしのむかしの素敵なピアノ展」というのをやっていて、ちょうど演奏が始まるところだったので聴いてみました。こういう所に行くのは久しぶり。色々なピアノに興味を持っていたころを懐かしく思い出しました。

 クリストフォーリ(1720年製、イタリア)、ブロードウッド(1802年製、イギリス)、ワルター(1810年製、オーストリア)、スクエアピアノ(1820年製、イギリス)、(伝)グラーフ(1820年製、オーストリア)、エラール(1874年製、フランス)といった具合に、時代と様式を代表するピアノ(フォルテピアノ)が展示され、簡単に解説をしてくれて、実際の音を聴けるという企画で500円はなかなか美味しいですぞ。ただ単に、昔のピアノを集めました〜という展示ではなく、きちんと時代の特徴などを順を追っていけるように過不足なく集めてあるので、さすがヤマハね、教育的だわ〜。

 毎日3回ずつ演奏があり、この日の演奏は川口成彦さんという方。プロフィールをみるとまだ芸大の学生さんのようですが、選曲もよく、とても分かりやすいハッキリした口上で、ときどき目をシロクロさせているところもなかなか好感が持てました。(←既におばちゃん目線。笑)演奏家としてはまだまだこれからの方なのでしょうが、期待できそうな感じ、頑張ってほしいです。

DSC_0728.jpg さて、それぞれのピアノの特徴ですが。クリストフォーリは、ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんから一応説明すると、ピアノのしくみを発明した人ということで、どの本を読んでも載っている有名人です。(でも、全く同じようなしくみを同時代に別な土地で発見した人は、他にもいるそうです。)フォルテもピアノも出せる楽器、というのが売りなんですが、見てのとおりの、ほとんどチェンバロという感じ。現代のピアノのダイナミクスに慣れている我々の耳には「フォルテもピアノも出せる」という風には残念ながら聞こえないです。常にピアノって感じです。チェンバロと違って、弦をはじくのではなく、ハンマーで叩いて発音するのですが、弦も細く弱々しいしハンマーも小さいので、はじいているのと大差ない音だなと思いました。

DSC_0729.jpg ブロードウッドは、イギリスの楽器。現代のピアノにつながっていく流れの元を作った人です。クラシック音楽の流れから行くと「イギリス」というのは意外な感じがするかもしれませんが、やはり国の大きさ、産業革命などによる最先端の技術ということを考えると、納得できるかも。クリストフォリに比べると格段に「ピアノ」の音に近づいてきました。その流れを組むのが、フランスのエラール社。ともに、イギリス式の突き上げ式アクションというのを用いています。特徴としては、力強い表現。

DSC_0731.jpgそして、ウイーンの楽器が2つ、ワルターとグラーフです。展示されていたワルターにはニーレバー(膝で操作するペダル)が3本付いていて、この中の1つ、モデレイター(弦とハンマーの間に布をはさむ。現代のアップライトピアノの真ん中のベダルと同じだけど、出て来る音は天と地ほども違いました。)というのを使って、ベートーヴェンの月光ソナタの冒頭を弾きましたが、それはそれは見事な幻想的な音だこと。現代のピカピカに明るい夜だったら、こんな月光だったら誰にも気づかれることもないほどの弱々しい光だけど、ベートーヴェンの時代の静かな暗い夜なら、きっと辺りを照らしたであろう、ほのかな柔らかい光でした。

DSC_0732.jpg 本来、次の流れはグラーフへ、となるのですが、ちょっと横道に反れて、スクエアピアノ(=四角いピアノ)に行きます。これは現代でいうアップライトのようなもので、高価で場所を取るフリューゲル(グランドピアノ)を買えない人のためのものです。因に、ドイツでピアノと言えばアップライトのこと、グランドはフリューゲルと言います。現代はアップライトでも88鍵あることは変わりませんが、スクエアピアノはかなり鍵盤数も少ないです。そもそもまだ88鍵になっていない時代ではありますが。

 一般の家庭でもそのようなお手頃なピアノが普及して、アマチュアの人が音楽を楽しむ時代になって来たので、そういう人のレッスンのための曲も多く書かれるようになりました。ということで、クレメンティのソナチネを演奏しましたが、ソナチネアルバムにやっとこ進んだ人が弾くのと違い、とてもいきいきとした演奏でした。そしてテンポもかなり速い。この曲を勉強するレベルの時には、この速さではとても弾けないということもありますが、このピアノで弾くならこの速さになるでしょう・・・というのもあります。それは、次のグラーフで弾いたトロイメライの時に説明がありましたが、昔のピアノの弦では、そんなに豊かで朗々といつまでも響き渡る音を求めるのは無理なので、現代のピアノで弾くよりも若干速めのテンポに設定した方が良いということです。逆に速い曲は遅めに設定した方が良いかなとも思います。昔の人はそんなにせっかちではなかったし、ピアノ的にも打鍵のスピードとかついていかなかったかなと思います。

DSC_0733.jpg DSC_0735.jpgDSC_0736.jpgそして、次。グラーフというピアノには、よく(伝)というのが付け加えられているのですが、これも何を意味するのか良く分かりません。展示されていたグラーフは、鍵盤が貝殻で出来ており、ペダルはリラの形をしており、装飾品としても優れています。フェアシーブングというファゴットを模した音になるペダルが付いており、それを使ってシューマンの楽しき農夫を演奏しました。この曲は、習いたての子どもにたどたどしくヨタヨタと弾かれてしまうことが多いのですが、大人がきちんと弾くと確かに楽しそうだぞって思いました。

 ワルターもグラーフもいわゆるウィンナトーン。とてもやわらかく旋律を歌うのに適しており、量産を好まなかったので、1台1台が色々な意味で違います。なので、遊び心あふれる様々な機能のペダルや、美しい装飾がなされたりしていました。まさに、ピアノは芸術品なんですね。本当はそうあるぺきだったんでしょう。でも、それでは商売が成り立たないので、量産してコストを下げて大々的に普及させて〜という会社には負けてしまったんでしょうね。残念なことだと思います。実際に音を聴いたので、そう思います。現代のピアノも、「1台1台が違う」とは言いますが、レベルが違います。これらのフォルテピアノの音を聴いたら、音楽って何て美しいものだと感じずにはいられません。

DSC_0737.jpg ウィンナートーンを作るのは、ウィーン式は跳ね上げ式アクション。今回、アクションの模型も展示されていましたが、恥ずかしながら、何度説明を読んでも、イギリス式とウィーン式の違いがあまり分からないのです。ハンマーの向きが逆なのは分かるのですが(それくらい誰でも見れば分かるだろーって)だから何??って感じです。それによって何が変わるの??なんで音質がここまで変わるの??っていうところが、理解できないんです。

DSC_0738.jpg エラールは、ショパンの好んだピアノという風によく紹介されていますが、本当のところはプレイエルだったようです。でも、今回の展示はなし。というのも、エラールは今はもうなくなってしまった会社ですが、歴史的に見てもっとも重要な発明をしているから。それがダブルエスケープメントで、これによってピアノの機能が飛躍的に発展しました。文字通り、ダブルでエスケープするんですが、これについても、私は何度聞いても良く分からないんですよね。ただ、川口さんの解説にもあったように「簡単にいうと、今まで(シングルエスケープメント、という言葉があるか知らないが)は、鍵盤が全部下まで戻らないと次の打鍵が出来なかったが、ダブルエスケープメントのお陰で、鍵盤が少し弦から離れたらすぐに次の打鍵が出来るようになった。」ということです。それによって、速い同音連打が可能になり、リストに代表されるような超絶技巧の曲が生まれたということです。

DSC_0740.jpg ただ、このことで失われたものも多いと思います。彼が最後に、「フォルテピアノの魅力は何ですか?」という質問に答えて、「現代のピアノを弾いていると、ピアノが弦楽器だということを忘れてしまいそうになるが、フォルテピアノを弾いていると、指の先に弦の感触が分かるくらい弦と近い感じがして、ピアノって面白いなと改めて思った。」と言っていました。つまり、そういうことです。ピアノは鍵盤と連動したハンマーが弦を叩いて音がなる楽器なのですが、ダブルエスケープメントの発明により、ハンマーが弦を叩く瞬間には、すでに鍵盤(=指)のコントロールを離れてしまうことになりました。最後の瞬間には、ハンマーを投げ捨てている状態だということです。そのことで、どんどん指先と弦が離れているという感触になってしまったのでしょうね。

 また、もう1つ、時代の要求により弦も太くなってきたので、その張力を支えるために内部に鉄骨が組み込まれました。これにより、鉄骨が響くので、華やかな音にもなります。それでも、この展示されたエラールは、写真では分かりにくいかもしれませんが、平行弦だし(現代のピアノは弦は長くピアノは小さくするために、高音と低音の弦を交差させています。)1本張りだし(現代のピアノは、高音の弦は1本をぐるりとUターンさせて張っています。)、まだまだ音が澄んでいました。

 それぞれのピアノで、1曲ずつの演奏をしたのですが、全体的に言えることは、音から香りがする、ということです。これは、古いピアノの音を聴くといつも感じることです。そして、それぞれのピアノはどれも個性があるのですが、どうしてこの時代にこの作曲家がこういう曲を書いたのか、だからこういう奏法をしなければいけないのだ、ということがハッキリ分かります。現代のピアノはそれはそれで素晴らしいのでしょうけど、それしか知らないと、いつの時代のどんな曲も同じテクニックで同じように弾いてしまいます。実際、それで弾けてしまうし、それなりに美しいし楽しい。でも、一度、時代に立ち返ってみるとまた別な面白さが発見できると思います。
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